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福井地方裁判所 昭和46年(わ)19号 判決 1975年3月11日

本籍

福井県鯖江市下深江町一六〇番地

住居

福井県武生市北府本町三二号八五番地

洋装品販売業

倉内義賢

大正一四年一〇月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官矢野収蔵出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を徴役二年及び罰金二、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右徴役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福井県武生市幸町六六番地に店舗を設け、クララ洋装店の名称で婦人用洋装品販売業を営むかたわら、営利を目的として継続的に多量の株式の売買取引を行ない、多額の所得を得ていたものであるが、同取引による所得については、従来、税務当局からとがめを受けたことがなく、課税された事例を聞知したこともなかつたことを奇貨として、これに対する所得税を免れる目的で、納税申告に際し、主に右洋装品販売業による所得を計上するにとどめ、株式の売買による所得は申告から除外することとする不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四二年分の実際総所得金額が三、五四六万二、七九七円 あつたのにかかわらず、昭和四三年三月一五日、同市高瀬町所在武生税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二七七万一、〇三八円でこれに対する所得税額が一七万二、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて右年分の正規の所得税額一、八五九万六、六〇〇円と右申告税額との差額一、八四二万四、〇〇〇円を逋脱した。

第二  昭和四三年分の実際総所得金額が二億九、六七三万四、四七七円あつたのにかかわらず、昭和四四年三月一四日、前記税務署において、同署長に対し、総所得金額が八一六万〇、〇五八円でこれに対する所得税額が一七八万〇、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて右年分の正規の所得税額二億一、二一九万〇、一〇〇円と右申告税額との差額二億一、〇四〇万九、二〇〇円を逋脱した。

(なお、右各所得の内容(事業所得分)は別表1、2の各修正損益計算書のとおりであり、各税額の計算は別表3、4の各税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

以上の事実は、

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  収税官吏の被告人に対する質問顛末書一五通

一  小木岩男、畠中平八、山下宏、三津井和夫、辻幹、内田秀数及び近藤敏の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の小木岩男(二通)、畠中平八(五通)、木田英明(二通)、栗林雄二、川口正男、山下宏(二通)、三津井和夫(三通)、藤井智淳、三津井富士雄、朝倉忠男(二通)、家久淳一、斎藤留三郎、伊藤俊介、大井龍雄(二通)、中川勇生、辻幹(二通)、内田秀数(二通)、近藤敏、五十嵐正二(二通)、湧口規好、品野秀吉、倉内恭子(二通)及び黒川弘に対する各質問てん末書

一  三津井富士雄(二通)、三津井平八郎、三津井和夫、山下宏、浅川八郎ほか一名、上野昭郎(二通)、斎藤篤(二通)、宮下紀一、高光志郎、高村健治、見谷甚一郎、足立正夫、川崎清六、倉持嘉博、中野正俊、須々木敏郎、村田敏男、山本秀一、下仲賢(二通)、及び吉田義雄作成の各上申告(検察官請求番号九五ないし一一八のもの)

一  収税官吏山岸幸作成の告発書(添付の脱税額計算書を含む。)、差押てん末書及び現金予金有価証券等現在高検てん末書

一  収税官吏古谷直二作成の脱税額計算書、検察官宛報告書(二通)及び現金予金有価証券等現在高検査顛末書

一  大蔵事務官奥並弘作成の証明書六通

一  所得税の青色申告書提出承認等決議書

一  大蔵事務官作成の各査察事件調査事績報告書二八通(検察官請求番号四四、六〇ないし六三、六六、六七、七一ないし七三及び七七ないし九四のもの)

一  押収してある日興証券パンフレツト綴一綴(昭和四六年押第三一号の一)を総合して認める。

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、「株式の売買取引による所得に対する課税は、年間の売買の回数が五〇回以上であり、且つ売買をした株数の合計が二〇万以上であることが要件となつているところ(所得税法第九条第一項第一一号イ、同法施行令第二六条第二項第一項)、被告人が判示第一にかかる昭和四二年中にした株式の売買取引は、その株数が二〇万株以上に及んでいることは認めるが、回数において四九回にとどまつているから、同年分の同取引による所得は、非課税所得というべきである。」旨主張する。

そこで検討するに、右回数の主張は、要するに、課税要件としての売買回数は証券会社との間の委託契約毎に算定すべく、右委託に基く売買が数回に分けて行なわれていても、一括してなされた委託契約に基くものである以上、一回の売買とみるべきであるということを前提とし、被告人の場合、同年中においては、和光証券株式会社武生支店関係で一八回、同会社福井支店関係で六回、三津井証券株式会社関係で一三回、益茂証券株式会社関係で八回、中野証券株式会社関係で四回の合計四九回の取引をしたことになるにすぎない、というのであるが、右の前提自体は正当であるとはいえ、その具体的な回数の算定は、客観的資料による裏付けを欠き、事後において恣意的になされた疑いがあつて、にわかに首肯し難いところである。かえつて、前掲証拠によると、被告人は、株式の売買は一取引毎に自己の判断で決定し、証券外務員に対し数回分の売買を一括して委託することはせず、したがつて、当日中に委託にかかる売買が成立しなかつたときは、その委託が取消されたものとして扱われていたこと及び現物取引と信用取引は別個のものとして委託していたものであることを認めることができるので、このことと証拠によつて認められる同年中における個々の売買成立の回数に照らせば、被告人のした売買回数は五〇回を優にこえていることが明白であつて、前記課税要件に欠けるところはなく、かりに弁護人の主張にかかる前記各証券会社関係の取引回数四九回が正当であるとしても、前掲証拠によれば、被告人は、同年中において、他に、須々木証券株式会社にも委託して成約をみていることが認められるので、これをあわせれば、課税要件の具備はとうてい否定すべくもない。

したがつて、いずれにしても、弁護人の右主張は採用することができない。

二  弁護人は、更に、「被告人は、株式の売買取引による所得について納税義務があることを認識していなかつたもので、逋脱の故意がなかつた。」旨主張する。

しかしながら、前掲証拠によれば、被告人は、長期間にわたり職業的に株式の売買取引を行ない同取引により極めて多額の所得を得ていたことが認められるのであるから、同所得に対する課税の有無について全く無関心であつたとはとうてい考えられないのみならず、前掲証拠によれば、少なくとも、昭和四二年分の所得税の確定申告期限の前後において、証券会社主催の株式取引に関する講演会に参加して講師に質問し、或は税務事務を委託してある税理士からの助言を受け、更には証券会社発行の啓蒙書等により、株式の売買による所得も課税の対象になる場合があることを知つたこと、それにもかかわらず、同取引においては損をすることもあるとして、税金の納付を厭い、かつて現実に課税された例を聞知したことがなく、税務当局からとがめもなかつたことなどを奇貨として、あえて同所得につき納税申告をしないという心情であつたことが推認できるので、被告人に逋脱の故意がなかつたとはとうていいい難い。

したがつて、弁護人の右主張も採用の限りでない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法第二三八条第一、二項に該当するので、情状によりそれぞれ懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法第四七条本文、第一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に決定の加重をした刑期の範囲内で、罰金計につき同法四八条第二項により各罰金を合算した金額の範囲内で、被告人を懲役二年及び罰金二、五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法第一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとするが、右懲役刑については情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間その執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋本享典 裁判官 山脇正道 裁判官伊藤新一郎は、東京地方裁判所裁判官の職務代行中につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 橋本享典)

別紙1

別表1の当期増減金額説明(昭和四二年分)

1 収入の部

(1) 株式売却高 363,195,600円

昭和42年中に売却した現物株式の総額

(2) 年末株式保有高 36,575,000円

昭和42年末現在で保有していた現物株式の総額、個別銘柄の評価は年首価額および買入価額の総平均法によつたもの

(3) 受取日歩 1,479円

和光証券福井の関康夫名義信用取引口座において、昭和42年2月8日付売約定の立石電機株5,000株を同年14日付現渡し約定で手仕舞いして収受した受取日歩

(4) 信用取引売買益 7,233,833円

昭和42年中に株式の信用取引を行なつた売買損益のうち、差金決済により差益が生じたものの総額。計算方法は、売約定の金額から買約定、委託手数料、取引税、日歩等を差引いたもの

(5) 信用取引受入配当金 1,507,836円

昭和42年中に受け入れた信用取引の配当金の総額である。信用取引の配当金とは、信用取引の株式について配当が付与された場合に、証券業者が売付を行なつた者から徴収して買付けを行なつた者に支払う配当落調整額である。

(6) 売上金額 6,032,112円

クララ洋装店の当年中における簿外売上高の推計額。この点については物証なく、仮名預金の分析調査からも確定できず、被告人供述による売上総利益率および簿外仕入高を基礎に逆算したものであり、裏付け証拠がないため犯則金額には算入しない。

2 支出の部

(1) 株式売却手数料 2,161,200円

昭和42年中に売却した現物株式について各証券会社へ、支払つた手数料の総額

(2) 株式売却取引税 543,862円

昭和42年中に売却した現物株式について支払つた有価証券取引税の総額

(3) 年首株式保有高

昭和42年1月1日現在で保有した現物株式の総額。個別銘柄の評価は、昭和41年分の年首価額と同年中の買入価額の総平均法によつたもの。

(4) 株式買入高 297,216,000円

昭和42年中に買入れた現物株式の総額。配当株については、額面額で算入

(5) 株式買入手数料 2,028,250円

昭和42年中に買入れた現物株式について支払つた手数料の総額

(6) 支払日歩

昭和42年中に現引した株式について支払つた支払日歩の総額

(7) 信用取引売買損 15,410,937円

昭和42年中に株式の信用取引を行なつた売買損益のうち差額決済により差損が生じたものの総額

(8) 減価償却費 108,869円

クララ洋装店の店舗に対する減価償却費の公表計上不足分

年首帳簿価額2,177,384円耐用年数24年定率法による償却率0.092

償却範囲額 200,319円公表計上額91,450円不足分108.869円

(9) 雑費

被告人が、昭和42年中、株式売買取引をしていた事に伴い支払つたと認められる書籍購入費、交際費等の総額

(10) 借入金利子、割引料

クララ洋装店の公表帳簿外で支払つた銀行借入金の利息。

(11) 仕入金額

クララ洋装店の当年中の簿外仕入高。簿外売上に対応するものとして犯則金額から除外

(12) 専従者給与額について

青色申告承認の取消により、否認となる所得税法57条1項の給与額(妻の分)

および、上記否認により認容すべき同法57条3項の必要経費額

別紙2

別表2の当期増減金額説明(昭和43年分)

1 収入の部

(1) 株式売却高、年末株式保有高、受取日歩、信用取引売買益、信用取引受入配当金専従者給与については、前年説明に同じ。

(2) 減価償却費 10,016円

クララ洋装店の店舗に対する当期超過分

(3) 貸倒引当金、価額変動準備金は、青色申告承認の取消による否認額

2 支出の部

(1) 株式売却手数料、同取引税、年首株式保有高、株式買入高、株式買入手数料、支払日歩、信用取引売買損、利子割引料、雑費については前年説明に同じ。

(2) 水道光熱費 12,833円

昭和43年2月15日福井銀行有明支店の当座預金から支払われたクララ洋装店の分店の電気料の支払分。簿外

(3) 損害保険料 2,475円

昭和43年5月8日福井銀行有明支店から支払われたクララ洋装店の火災保険料。簿外

(4) 減価償却費 8,432円

クララ洋装店の店舗改装の追加工事金100,000支払分が簿外となつていたため、この分の当期の償却認容額

(5) 支払手数料 500円

福井銀行有明支店の口座から三菱銀行大阪支店へ送金した手数料

別表1 修正損益計算書

(自昭和42年1月1日 至昭和42年12月31日)

事業所得分

<省略>

<省略>

(注)別紙1の説明参照

別表2 修正損益計算書

(自昭和43年1月1日 至昭和43年12月31日)

事業所得分

<省略>

<省略>

(注)別紙2の説明参照

別表3 税務計算書

自昭和42年1月1日

至昭和42年12月31日

<省略>

税額の計算

<省略>

(注)

1.申告額は、所得税確定申告書記載のとおり。

2.ヘの課税総所得金額は、改正前の国税通則法第90条第1項により、1,000円末満の端数を切り捨て。

3.チの配当控除額は、租税特別措置法第8条の5により、100分の7.5を適用。

4.ルの差引納付税額は、国税通則法第91条第1項により、100円末満の端数を切り捨て。

別表4 税務計算書

自昭和43年1月1日

至昭和43年12月31日

<省略>

税額の計算

<省略>

(注)

別表3の昭和42年分の(注)と同じ

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